介護施設で横浜 F・マリノスを応援!レポート

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ツクイとF・マリノスのチャレンジが拓く、サッカー×介護の新たなシナジーの可能性

2019年2月のパートナーシップ締結からまもなく5年。
『TSUKUI DAY』の定着もあり、月日を重ね関係を深めてきたツクイと横浜F・マリノスが2023年、さらに一歩踏み込んだ取り組みをスタートさせた。
サッカーと介護、直接的な関わりは薄いように思える分野のトップランナー
たちによる新たな挑戦の先には、思いがけない驚きや発見があった。
半年間にわたった活動の模様を振り返る。

取材・文 久保佑一郎
写真 横浜F・マリノス

2023年12月3日、2023シーズンの明治安田生命J1リーグ全日程が終了。リーグ連覇を目指した横浜F・マリノスは惜しくも2位に終わったが、実はこの日はF・マリノスにとって、ピッチの外で取り組んでいたあるチャレンジの“最終節”でもあった。
舞台となったのは、ツクイ・サンシャイン保土ヶ谷。F・マリノスとオフィシャルパートナーシップを結ぶツクイが運営する介護付有料老人ホームだ。

100歳で決めたゴール!

今期実施された企画は「認知症予防プログラム」「TV観戦会」「スタジアム観戦会」の3つだった。

1つ目の「認知症予防プログラム」は、F・マリノスのふれあいコーチがツクイ・サンシャイン保土ヶ谷を訪問し、入居者の方に身体を動かす機会を提供するもの。過去にデイサービスの利用者向けに同様の活動を行っていたが、サービスの性質上その場限りとなってしまうことが課題だった。そこで、このプログラムをより効果的なものにするために、老人ホームの入居者の方を対象に継続的に運動の機会を設けるのが今回のプログラムの狙いであった。

プログラムを担当したのはF・マリノスの斎藤幸宏コーチ。斎藤コーチは普段、ふれあいサッカー部門で子どもたちや大人、横浜F・マリノスフトゥーロ(知的障がい者サッカーチーム)の選手にサッカーを教えているのだが、今回のような高齢者の方に指導した経験は多くなく、最初は「緊張しましたし、(参加者の皆さんが)楽しめず『苦しい』になってしまうんじゃないかという不安もありました」という。また、不安があったのは受け入れるツクイ・サンシャイン保土ヶ谷側のスタッフの皆さんも同じだった。大胡芳徳施設長は「私はお祭り男で、みんなで楽しめるなら断る理由はないと思い引き受けました」と話す一方で、「まさかボールを蹴るとかしないよな、どういうことをするんだろうと思っていました」と明かす。

しかし、である。実際には簡単なストレッチから始まり、最後にはなんと参加者の皆さんがボールを蹴ってシュートする運動も実施された。しかも、その中には100歳の方もおられ、しっかりとゴールを決められていたというのだから驚きだ。これには「こんなこともできるんだ、と衝撃でした」と大胡施設長。同じく驚いたという斎藤コーチは「サッカーというツールを通して年齢も、置かれている状況も関係なく距離を縮められることをあらためて実感することができました」と話すとともに、そういったシーンや参加者の皆さんの笑顔に触れて「むしろ僕たちがパワーをもらいました」という感謝の言葉も聞かれた。

また、ボールを蹴る以外のエクササイズに関しては「失敗も含めて楽しめるような、例えば右手と左手で違う動きをするなど、より脳に刺激を与えられるようなもの」や、もしくは「心身の機能を効率的に上げるような」内容などが実施された。

満開の笑顔と、スタジアム観戦での気づき

「TV観戦会」および「スタジアム観戦会」については文字通り、ツクイ・サンシャイン保土ヶ谷の入居者の中から参加者を募って施設内でTV越しにF・マリノスの応援をしたり、実際にスタジアムへと足を運んで試合を観戦した。

大胡施設長いわく、当初は「F・マリノスのことを知らない方も多く、夜になると(応援のために設置された)選手のパネルを見て『怖い』という声もありました(苦笑)」という。しかし、回を重ねるごとに「F・マリノスへの興味、関心が高まっていきました」(大胡施設長)とのことで、J1最終節となった京都サンガ戦のTV観戦会には30名以上の方が参加。おそろいのTシャツを身に着け、フラッグを振りながらチームに声援を送った。ゴールに拍手を送り、失点にシーンと静まり返る様子はスタジアムにいるファンそのもの。また、F・マリノスのコーチによる見どころのアドバイスが行われたほか、F・マリノスの公式チア「トリコロールマーメイズ」による応援レッスンも実施されるなど、サッカーに詳しくない参加者の方でも楽しめるような工夫が凝らされていた。

「この活動で初めてF・マリノスのことを知りました」という入居者の山本久子さんは、TV観戦とスタジアム観戦の両方に参加して「普段とは違うワクワクした気持ちになれて、素晴らしい時間を過ごせました」と満面の笑み。「ゴール1つで盛り上がれるのはどこに行っても同じなんだと感動しました」と語る野中詳コーチ、「スタジアムでパフォーマンスする時よりも、声援を近くに感じることができました」というトリコロールマーメイズのAikaさんと「普段は皆さんと一緒に応援することがないので、すごく楽しめました」と話してくれたSakiさんだけでなく施設のスタッフの皆さんからも笑顔が絶えず、非日常の時間を共有できたことこそが今回の活動の何よりの成果だ。

スタジアム観戦会は、臨場感と声援を直に体験する貴重な機会となった。ただし、その中で課題も見つかったという。参加者の皆さんが座席に着くまでに、非常に苦労したのだ。F・マリノスのホーム、日産スタジアムはスロープの設置などバリアフリー化が施されているが、試合日となると大勢の観客が溢れているうえ、少しの段差が高齢の方にとっては大きな負担になった。「スタジアムの在り方を考えるうえで、大きな学びになりました」との声が関係者からあったように、F・マリノス側にとっても新たな気づきを得る場となった。

全体を通しては「お客様の中にはどうしても、記憶が薄れてしまう方もおられるので、もう少し頻度を増やしてもらいたいです」(大胡施設長)とのフィードバックもあり、今後の活動の中で改善していくことが期待される。

高齢化が大きな社会課題の1つとなっている中、今回の取り組みは両者のより強固な関係の構築はもちろんのこと、そこで得られた新たな気づきが社会の発展にも寄与するものになる――ツクイとF・マリノスが踏み出した新たな一歩は、そんな予感を抱かせるものだった。